未見だった宝塚歌劇団月組公演『ベルサイユのばら オスカルとアンドレ編』(2013)をようやくDVDで鑑賞することができました。この当時はトップスター龍真咲と、準トップスター(なぜ2番手ではダメだったのか今でも知りたい!)明日海りおのオスカル/アンドレの役替わり公演で、どの日にどちらがオスカルを演じるか、事前に発表されています。濃いファンは、両方を見たいと考え、チケットも売れるだろう、というもくろみのようです。このふたりのからみは多いとしても、かなりハードな所業です。DVDでは、当然トップスターである龍真咲が主役のオスカルを演じています。
よくよく聴いてみると、明日海より龍のほうが、自然に高音を出せています。龍がのちに『風と共に去りぬ』でスカーレットを演じたり、噂に過ぎませんが、明日海が月組版『エリザベート』のオーディションを受けたけれども、高い声が出しきれないということで受からなかったということもあったようです。『ベルサイユのばら』に関しては、このシフトのほうがしっくりくると感じました。オスカルがプライベートでは女性であることを、龍は声の高さで演じ分けをしていました。 誰が「ベルサイユのばら=歌舞伎」と言い始めたのかは知りませんが、この作品、決まりごとが多くて、そのポイントは必ず見せ場となります。マンガで出てくるセリフは、文字上で読ませなければいけないから、よくも悪くもおおげさになりがちです。そのセリフをこわさないように、そっくりそのまま舞台に取り入れているから、不自然さはまぬがれません。 ところが、そこが「歌舞伎」の強さです。アンドレがオスカルと無理心中を試みる場面、アンドレが銃撃を受けながらも歌いながら死んでいく(これはミュージカルの中でも無理やりなシーンの1番目を争うかもしれません)場面、バスティーユに攻めていく群舞、そして自らも銃撃に倒れるオスカル。ほとんどのお客さんはこのあと何が起きるか知りつくしているにもかかわらず、やはり息を詰めて見守り、一緒に泣いたりします。これが原作の強さなのでしょう。そして、「変えてはいけないものは変えない」のが、『ベルサイユのばら』が「歌舞伎」と呼ばれる所以なのでしょう。 主要な配役の名前を見ると、おっ、と思わされたりもします。若くして龍のあとを継いで月組のトップスターになった玉城りょうがジェローデル、雪組トップ娘役として花開いた咲妃みゆが子ども時代のオスカル、月組2番手を遅咲きながら手にした美弥るりかがベルナール、と4年前の公演なのに、上層部が目星をつけた生徒に巧みに役があてられているのにも感心させられました。